中小企業金融円滑化法がもう一年延長され、さらに資本性借入金を積極的に活用するようにという金融庁の発表があった。
金融機関の一部では貸出先に対し、さらなるリスケの延長とともに、DDS(劣後ローン)を組む先のリストアップに取り掛かったようだ。
これまでも中小企業再生支援協議会を通して、いわゆる協議会版DDSの活用を目指した金融機関や旅館は、数多く存在した。
しかし、再生の見込がないと判断された旅館の案件は、中小企業再生支援協議会から金融機関へ戻され、結局金融機関の最終判断に委ねられるというパターンに至っている。
再生の見込の判断基準は、このコラムで何度も述べてきたように、フル減価償却後に黒字が計上される可能性があることである。
つまり、過去の負債の返済能力はともかく、自力で利益を生み出すビジネスモデルが構築できるかどうかということにつきるのである。
今、その基準に達していないが、それに向かってなんとかその基準をクリアしようとしている旅館は、まず自館の三年から五年後にかけての「あるべき姿」を明確に描くことからスタートする必要がある。
そしてそのプロセスを歩んでいく際に、障壁となるものをピックアップし、その抜本的な原因を突き止める。
さらにその課題を、努力と工夫によって解決していく。
この具体的な内容は、各旅館によって異なるのだが、実は多くの共通点が存在する。
それはまず自館の将来ビジョンが全く描かれていないことがあげられる。
先頭に立たなければならない立場の経営者が、今おかれた経営環境に悪戦苦闘し、全く何をどうしたらいいかわからないというケースだ。
これはあるべき姿が明確になっていないから、方法が見つからないのであって、課題解決のプロセスそのものが間違っているのである。
経営戦略を立て、それを実行していくという、経営者にとって最も重要な仕事は、順番を間違えると全く機能しないことになる。
事業はあくまでも結果が求められるが、その結果を導くためには、定石となるプロセスを間違えないことが基本だ。
見当違いの努力をしている時間はもはやない。
自館の存在価値を確かなものにし、そこに利益が出てくるビジネスモデルを必死で作り上げよう。
| 2012年03月01日|
日常業務のオペレーションンが、従来から行われてきた仕組みのままでは、うまく機能しなくなってきているケースが多い。
現場のスタッフも、このままではだめだという意識を持っている。
しかし、長い間実践されてきた仕組みや方法を、現場主導で急にかえることは難しい。
ここは経営者や幹部の出番なのだが、業務全体を客観的に把握している人材は思いのほか少ない。
だから、何をどのように変えていったらよくなるのか明確に判断ができず、結果としてあいかわらず旧態依然としたオペレーションが続いているのである。
このような場合には、業務上の課題とその原因、そして課題解決の方法を現場のスタッフ全員にそれぞれ個々に記述してもらい、一覧表にしている。
この際、直属の上司や経営者をスルーして、第三者であるコンサルに直接原本が届く方法をとっている。
ここで特定の人物に課題がある場合と、オペレーション上の仕組み自体に課題がある場合が出てくるので、これらを仕分けする。
そして一覧表の中から重要な課題だと思われる項目をピックアップする。
ただしこの段階ではあくまでも現場からの声であるため、この現場を第三者が検証する必要がある。
複数のスタッフを選定し、問題となった現場について、時間を追ってだれがどこで何をしているのか?
そしてスタッフ間の業務リレーがある場合、何が問題となっているのかを客観的に見るのである。
それを可視化した結果、やはり課題であると判断した場合には、それを開示し、抜本的な原因の抽出と課題解決の方法を検討する。
オペレーションの方法を変えることだけで解決するものは、どんどん変えていく。
しかしここで厄介なのは、課題の原因に特定の人物が関わっているケースである。
今までは「この人がそもそもの原因だ」といいつつも、いやな思いをしたくないために、不満を抱えながらもそのままにしてきた。
しかし、「この人」はとりあえずおいておき、その人の行動そのものに着目し、それがどのように作用しているかということのみを検証するという方法をとる。
もっとも重要なことは、よりよい旅館を作り上げることであり、その方法は現場の考え方とオペレーションを何としてでも変えることである。
| 2012年02月17日|
毎月定期的にコンサルを実施している中規模旅館がある。
いつもは、業務上優先して解決しなければならない課題についてコンサルを実施している。
しかし、今回この旅館の経営者から依頼されたのは、「我が旅館のグランドデザインを策定したい」というテーマだった。
これはどこかにすでに存在するかっこいいコンセプト集をまねて作るということではない。
策定の目的は、目標経営数値を達成させることのできる、強い旅館(企業)にすることである。
まず、旅館を取り巻く外的経営環境は今年もかなり厳しいと予想する。
しかし、その変化に対して、内的な対応はほとんどできていない。
日常業務は多忙を極め、こなすことで精一杯だ。
だから新しいことはやりたがらないし、仕事は増やしたくないという意識がある。
このような状況を、しかたがないと判断しては、この先はないと経営者は考えた。
そこでグランドデザイン策定に当たっては、顧客満足(CS)向上と従業員満足(ES)向上の両立を執拗に追い求めることとした。
つまり、旅館が目指す状態を具体的に表現し、そうなったときには自分たちはどうなっているのかを対比させることにある。
現場のスタッフは、リストラ等で労働環境が厳しくなるにつれ、この先どうなるのか?
いつになったらよくなるのか? という不安な精神状態にある。
このような中で、質の高いサービスの提供を一方的に指示しても、心も身体もついていかない。
だから、グランドデザインというこの旅館が理想とする状態を具体化し、その実現に向けて努力と工夫を重ねていくことの価値を共有することが不可欠と考えたのである。
これを宣言してからは、あいまいであったことやタブー視していたことに対し、果敢にメスを入れることが行われている。
「例外と矛盾」が横行していた現場から、周りが良く見える現場へと変わりつつある。
もちろんこれを維持していくには毎日大変なパワーが必要だ。
特に「ひと」が絡む問題が重い。
それでもそこから逃げない経営者の姿勢は、現場のスタッフにははっきりと見える。
その姿に納得したスタッフは、確かに動きが違う。
| 2012年02月13日|
経営数値の目標達成に向かって、現場が一丸となって取り組もうとしても、あるところでつまずくと、そこから先がなかなか進まず、結局頓挫してしまったという経験はないだろうか。
ある旅館では、毎年この繰り返しをしていた。
なぜそうなるのかを改めて問いただしてしてみると、スタートラインでは総論賛成なのだが、立場や考え方、行動パターンの違いから、足並みが揃わなくなり、軌道修正をするエネルギーがなくなってしまうということだった。
そこで今年は、幹部十名が集まったところで、自館の強み・弱みを明確にし、共有することから始めた。
具体的には「施設」「料理」「サービス」「環境」「営業・販売」「業務管理」「組織・意思決定機関」「人材」「財務・資金」「企画・アイデア」の十項目に分類し、それぞれ強み・弱みについて、各自が他人と相談せず、一項目につき五個以上記述してもらい、これを集計したのである。
この作業をするのに、約二時間。十名×十項目×五個×二(強み・弱みそれぞれ)で千項目の「事実」が一気に集まった。
この一覧表を見ると、大多数の人が共通して認識していること。
大多数が認識しているが、当事者だけがその認識が無いこと。
きわめて少数意見だが、注目すべきこと。の三パターンに分類できる。
次にこれらをグループ分けし、その理由や根本原因を追究していく。
さらに次のステップは、強みをさらに促進していく対策を、弱みを補強していく対策を検討していく。
この議論は時間を忘れてしまうくらいに白熱する。
それは、題材が出席者自ら提示したテーマであるからだ。
促進策や補強策はすぐに取り組めるものから、お金と時間がかかるものまで一様ではない。
また、重要度合いもさまざまだ。
このような要素を考慮に入れ、実施項目の順番とタイムスケジュールを落とし込んでいく。
これが今年度の行動指針として確立することとなった。
今までは社長自らが作成し、従業員に提示をしていたが、うまくいかない繰り返しだった。
しかし、今年は幹部自らが作り上げたテーマと方策、そしてタイムスケジュールがある。
幹部が一丸となって行動する準備が、いままさにできた。
| 2012年02月10日|
年が明け、新たな気持ちで旅館経営に取り組んでいる多くの経営者は、相変わらず極めて不透明・不安定な外的環境に対して、どのような準備をしていけばよいのか、実はよく分からないというのが本音だろう。
経営の現場ではスピード感が重要な要素であり、顕在化した課題の解決に速く取り組まないと、次の課題が訪れる。
最悪のパターンは課題に立ち向かうことを、先送りすることにより、何から手をつけてよいのか、全く分からなくなってしまうことである。
こうなると、対処の遅さが悪い結果として重なってくる。
このような経験は二度としたくないと思いつつも、何度も繰り返してしまうということはないだろうか。
世の中には変えられないことと、変えられることがある。前者は過去と他人と外的環境であり、後者は未来と自分と内的環境である。
過去と未来は説明するまでもない。
部下等の他人には、考え方や行動を自ら変えてもらうための努力を経営者はし続けなければならないが、変えようとする気になるかどうかは結局本人次第である。
景気や消費税増税等、外的環境は、自分だけで変えられるレベルの話ではない。
しかし自分の旅館の仕組みや提供商品、スタッフの動きは、努力と工夫次第では変えられる可能性がある。
旅館経営を取り巻く外的環境の厳しさを嘆いてばかりで、結局何もしないでいては、現状維持ではすまされない。
確実に衰退してしまうのである。
それを望まないのであれば、現状を直視し、今までと同じ考え方や行動では解決しないと判断したら、思い切って自ら変化していくしかないのではないか。
人は一般的に変化することを嫌う。
なぜならばその為には何らかの犠牲を払わなければならず、多くのパワーが必要となるからだ。
それを乗り越えて自ら変化をする人(旅館)と、そうでない人(旅館)には、大きな差がついてしまう。
今年のテーマはスピード感を持って仕事に当たり、自らを変化させて新しいことをする。
このような考え方と行動が基本姿勢となる旅館を創っていきたいものだ。
今年は明るい年になってほしいと誰もが願っている。
しかし願うだけではだめだ。
自ら明るい年にしなければならない。
| 2012年01月29日|