第333回 価格競争に巻き込まれないために

 競合旅館や地域の旅館が総じて低価格戦略を打ち出してきているところが多い。

 特に地元周辺の法人・団体をターゲットとしている直営業において、この影響が出ているようだ。
 
 今まで得意先となっていた客先へ「今年の忘年会もまたよろしく」営業に行ったところ、競合旅館がかなりの低価格で見積りを出してきた。
 
 また、成約した客先に対し、低価価格の見積りを出して強引にひっくり返されたという話がある。
 
 このようななりふり構わぬ他館の対応に対し、営業担当者があせってしまい、提示された金額に合わせてしまうことがある。
 
 とりわけ集客数のみがノルマの対象となっているところは、何としてでも計画した入込みを確保しようとする。
 
 一方でネット系の予約担当は成約しやすい低単価の商品を並べてしまう傾向にある。

 この結果、何とか客数は目標をクリアしたものの、売上高がかなりダウンし、大幅な利益の減少やキャッシュの不足に及ぶことになる。
 
 このような流れを経営者自身が把握していても、結局何も対処するすべが無く、経営状態の悪化を招いてしまうというパターンが顕在化している。
 
 体力が弱く、低価格では利益が出ない体質の旅館がこのプロセスに入ってしまうと、その結末は悲惨だ。
 
 どの客層をターゲットとし、価格をいくらに設定し、どのような戦略を立てていくかは旅館ごとに異なる。
 
 したがって目指すべき目標値(収支)とビジネスモデルの整合性を図ることができれば、成功である。
 
 そのための舵取りをするには、現状がどのような状況にあるかを客観的なデータで把握することが必要だ。
 
 例えば宿泊単価の現状や推移を把握したいのであれば、月別宿泊単価別の人数、売上高、構成比の一覧表と価格帯別収支モデルを作成し、目標と現状のギャップを数値で確認することだ。
 
 要するに、いくらの価格帯の客を今月は何人取らなければならないかを明確にすることである。
 
 これが経営計画と連動した数値であることが重要であり、それを達成するための具体的なガイドラインとなる。
 
 無策の結果として、価格競争に巻き込まれることは、何としても避けなければならない。

第332回 基軸としての方針を確立する

 ある中規模旅館へひと月に一回のペースで訪問している。

 そこでは経営者および主な幹部社員とともに、旅館の内部体質の強化を目指してプロジェクトを推進している。

 直面する課題解決や営業・販促については日常の会議をもって対処している。

 このプロジェクトの特徴は、ここで決まったことをオープンにし、社内の各会議に反映させる仕組みを作っていることである。

 また、計画策定と実行においてはスピード感を特に重視し、対応が遅れればペナルティを科している。

 この旅館では、もともとスタッフ間の風通しが悪く、隣のセクションが何をしているのかよくわからず、またそれを知ろうともしなかった。

 また、ひとつの仕事をいつまでに達成させるということが希薄で、いつもやりっぱなしが多かったのである。

 このような繰り返しが、旅館の雰囲気を暗くし、スタッフのモチベーションを下げていた。

 経営者はこの旅館の弱点を克服するために、まずは本プロジェクトから、「決定事項のオープン化」と「スピード達成」の二本柱を特に意識したのである。

 このコンセプトは何があっても決して譲らないこととしたため、プロジェクトスタッフのなかにはついていけない者も現れた。

 今までは「しかたがないなあ」と妥協してきたところだが、今回は二度注意しても改善できなければ即配置転換。

 新たな場でも同じ結果であれば退場というプロセスを実行している。

 その結果、現場では一時的に人手が足らなくなり、混乱が生じた。

 しかし、今までチームワークを乱していた人物がいなくなったことで、精神的なストレスがなくなり、その職場は明るさが戻ってきた。

 このような決断をした結果、今までとにかく現場では人数確保を第一優先でやっていたことが、結局客やスタッフにとっても不幸を招いていたことにみんなが気づいたのである。

 現場では多くのスタッフが働いている。

 ひとりひとり性格やものの考え方は異なる。

 だからこそ、職場での基軸となる方針を確立することは重要であり、ものごとの判断基準となる。

 これができたからいちいち細かいことに振り回されず、悩まなくなったと、この旅館経営者が語ってくれた。

第331回 再生の分岐点とは

 あいかわらず金融団会議、いわゆるバンクミーティングに出席する機会が多い。

 金融機関が独自の査定で債務者を区分し、破綻懸念先に下がってしまうと、その案件の担当は支店から、本部に移る場合が多いようだ。

 支店レベルでは、融資先には何とか元気になってほしいという気持ちが基本的にある。

 しかし、本部はスタンスが全く異なる。

 それは、その企業が立ち直ることが出来るかどうかを冷静な視点で判断することが求められているからだ。

 その「立ち直りの可能性」の尺度とはずばり、フル償却をして経常利益がでること。

 これに尽きるのである。

 金融機関本部の、この種の案件を手がける部署は、「経営支援部」や「再生支援部」といった、一見企業再生のお手伝いをしてくれる、ありがたい部署のような印象を与える。

 しかし、再生の土俵にのぼるには、前述の尺度をクリアしていることが大前提だ。

 これは道理にかなっており、いくら負の財産をカットあるいは棚上げしたところで、今後利益をあげていくことができなければ元も子もないからだ。

 これはどのような金融機関であっても変わらないものである。

 だから債務者である旅館は、今後金融機関から何らかの支援を受けて再生を図っていこうというつもりならば、是が非でも償却後利益を出し、しかもこれを続けていくことが出来る可能性を示さなければならない。

 金融機関は鉛筆をなめながら作成した「絵に描いた餅」の経営計画を最も嫌う。

 金融支援をした上で、その旅館が正常化するまでのリミット(期間)が明確に定められている以上、ここから逆算して経営計画を策定することは当然である。

 したがって、それを実現していくための根拠、つまり再生の為の戦略・戦術と具体的行動計画は必須であり、なによりもその実現プロセスを金融機関は注視している。

 金融機関は財務的にみた理想と現実の姿は良く見えている。

 しかしそのギャップをどうやって埋めていくことが出来るかについては、全くの素人である。

 それを行うのは唯一旅館経営者であり、実際に出来るかどうかがまさに再生の分岐点である。

第330回 「信頼」を失わないために

 ビジネスはもちろんのこと、人との付き合いにおいても最も重要な要素のひとつとしてあげられるのは「信頼」だ。

 物事がうまくいっているときはいいが、そうでないときに、この信頼を裏切る行為が時として発生する。

 たとえば約束した納期を守らない。

 支払延長を何の連絡も無く実施する、等々。事が大きくなると、事業の存続に影響する事態にもなりかねない。

 信頼されない人や企業と言うのは、そのような行為を繰り返す。

 だから、ある時点でこれ以上付き合うのはよそうということで縁が切れてしまう。

 人も企業も単独では存続し得ない。

 周りから多くの支えや支援があってはじめて成り立っていくものだ。

 ところが信頼できない人や企業は自己の都合を最優先に捉えて行動する。だから、時として相手を傷つけても何とも思わない。

 毎日の経営においては、さまざまな意思決定を連続しておこなう。

 その結果は関係者にとって必ずしも満足する結果とは限らない。

 考え方や立場が変われば正反対の感情を抱くことのほうがむしろ多い。

 それでもひとつの結論を出して、進む方向を明確にしなければならない場合、その理由と関係者へのフォローアップを忘れないことがとても重要だ。

 信頼を得るということは、相手の満足する結果を出し続けることではない。

 自分とは違う相手の立場や考え方を理解し、それを踏まえた上で自分の行動について理解してもらうことである。

 腹のそこから納得はしなくても、相手にも立場の違いを認識してもらうことで、人も企業も大人の付き合いができる。

 厳しい経営環境の中にあって、殺伐とした人間関係や企業間の出来事が多い。

 しかし、人や企業の「誇り」としてとして、信頼される行為を実践することが大事だ。
 
 「自分の周りはすべてがお客様」という考え方がある。

 周りの人に少しでも今以上に喜んでもらうために、今時分には何が出来るか?

 これを忘れた旅館や経営者そしてスタッフは、必ず周りが離れていく。

 ビジネスモデルは理屈だけでは決して成り立たない。

 なぜならばその先には感情を持った「人」がいるからである。

 思いやりや「おもてなしの心」の原点がここにある。

第329回 自ら「変化」を!

 3年前、アメリカのオバマ氏は「チェンジ」と叫んで、アメリカ国民を魅了し大統領に就任した。
 
 それからわずかの間にリーマンショックや政権交代、大震災に原発事故と、世の中を揺るがすエポックメーキングな出来事がわれわれの周りに次々と起こってきた。

 これらは「想定外」の連続であったが、もはやその言葉で片付けられる時代ではなくなったのかもしれない。

 外的環境の急激な変化というのは、えてして悪いイメージで捉えられている。

 だから急激な環境変化に適応できないところは、経営の悪化の原因をそのせいだけにしたりする。

 でも結局のところ、それでは誰も助けてはくれないよということで、環境の変化に敏感に反応せよと、マネジメントの先生やマスコミに頻繁に登場する実務家たちは口を揃えて言っている。

 しかしそれだけではまだまだ受身体質から脱却できない。

 むしろ自ら変化を肯定し、変化を仕掛けていく体質がエクセレントカンパニーのスタンダードとなっていくのではないか。

 旅館業は総じて「待ち」の商売が続いた。

 商圏が広いため、直営業だけではおのずと限界がある。

 したがってエージェントにその多くを依存し、多額の手数料を支払ってでも集客をしてきた。

 それがネットに移行してきたところで、その体質は基本的にかわっていない。

 しかし、長く続いた「客を待つ」という基本スタンスでは、もはや旅館のビジネスモデルが成立しない。

 常に変化し、自ら発信する姿勢を経営者が行う事により、旅館の雰囲気が目に見えて変わってくる。

 逆に客はもう来ないとあきらめてしまったところは、その姿勢が鮮明に具現化してくる。

 そこからは負の連鎖反応が加速し、やがて手の打ちようがなくなってしまう。

 あれこれと悩み、何の行動も起こさないのでは、結局時間だけがすぎさってしまう。
 
 ビジョンやそれに向かう行動が無いところは、例外なく衰退が待っているだけだ。この業界がここまで来るのは想定外だという前に、
 
 自分なりの「チェンジ」とは何が必要かを、改めて考え直してみるべきだ。