第323回 旅館の存在価値を自らつくりあげる

 大震災後、どのように旅館を経営していけばいいのかという議論が、さまざまな場面で行われている。

 特に共通しているのが、借入金の返済猶予、売上減少を考慮したキャッシュの確保、そしてこの夏の節電対策等である。

 現場では、これら当面の課題をクリアしていくことはもちろんだが、この先、果たして明るい見通しはあるのかといった大きな不安が付きまとっている。

 震災以前から極めて厳しい経営環境にあった旅館が、さらに大きな打撃を受け、経営破たんしていくところが増えていることも、拍車をかけている。

 このようななか、旅館を取り巻く大変厳しい経営環境を事実としてしっかり受け止めたうえで、自ら行動していくべき事柄について、優先順位を付けて整理することが大事だ。

 経営環境が厳しいということは、顧客から選択される条件が、今まで以上に厳しくなるということである。

 だから顧客に選択されるための商品力や販促体制が、今までどおりのやり方ではだめだということだ。

 それぞれの旅館が顧客にとっての存在価値を再度見つめなおすこと。

 そして経営者が目指す理想と現実とのギャップをはっきりと認識し、それをスタッフにも告知すること。

 そして実現に向けての具体的な行動内容と、スケジュールを打ち出すことである。

 これが経営者自身まだ整理できていない、あるいはその発想そのものがないところは、経営者と従業員がとまどいながら日常業務をこなしていくこととなる。

 このような状態では、顧客に対して質の高い商品を提供することなど、まずもって無理である。

 その結果、ますます集客数が落ち込み、経営状況が悪化していくこととなる。

 今一番大事なことは、自分の旅館の存在価値を、顧客の立場になりきって捉え、自ら創造することである。

 これができなければ、いくら当面の対策を講じたところで、わずかばかりの延命策にしかすぎない。

 今まで経験したこのない経営環境のなかにあって、今ほど経営者の資質や能力を問われる時代はない。

 その結果が如実に反映されるのが、まさにこれからだ。

 厳しい時代だと頭を抱えて悩んでいても、何の解決にもならない。

第322回 再度ホスピタリティについて

 先週に引き続き、ホスピタリティについて述べたい。

 画一料金の旅館や廉価でシステマチックな居酒屋がなぜ受けているのか?

 これは家族4人で利用したときの総予算、素材はともかくどの世代にも対応したメニュー構成、多少子ども騒いでも、気にならない雰囲気と環境。
 
 そして魅力的な送迎サービスというラインナップ。

 これはターゲットが欲していることを提供し、そのことに対して共感する客が支持しているからである。

 これらの旅館には、それぞれの顧客に合わせた臨機応変のホスピタリティはない。

 むしろ、はじめからルールが明確になっていて、その内容を良しとした人のみに来ていただきたいという、価値がわかりやすい仕組みがある。

 この仕組みは、その客層のライフスタイルや価値観を徹底的に調べ、多くの満足を得るだろうというマーケティングがベースになって、サービスの仕組みを作り上げている。

 一方で日本の文化としてのおもてなしの心を最大の商品とする伝統旅館も存在し、高級ホテルの手本となっている。

 多様化し、常に変化する価値観はまさに人それぞれだ。

 意見や考え方もそれぞれ違う。むしろいつも皆同じというほうが不自然だ。

 しかし、旅館は客に対し、それぞれの形でホスピタリティを提供し、それに対してどう感じるかが評価となって現れる。

 再度検証しなければならないことは、多くの人が不快に感じることを、当たり前のように提供し続けていることはないか?

 旅館が提供している商品(施設・料理・サービス)が、対象顧客のホスピタリティの表れとして作り上げられたものであるかどうか?

 そして、さらに一人一人の顧客に対して心から心に伝わるホスピタリティを旅館が持っているかが大事だ。

 客を喜ばすためのパフォーマンスだけに走ったり、廉価だけが売り物の旅館には、一部かげりが見え始めているという。

 それは、いかに料金が手ごろであっても、心に残らない、つまりホスピタリティの精神が全くない旅館は、決して長続きはしないのである。

 わが旅館では、ホスピタリティがどのように存在しているか、今一度検証してみてはいかが。

第321回 ホスピタリティは必要か

 先日、接客サービスをテーマとしたセミナーを開催した。

 講義のなかでゲスト講師は、相手を不快にさせないという「マナー」を徹底することがサービス業の大前提。

 その上に業務としての「サービス」があり、そしてさらに一人一人の客に対するホスピタリティが存在するという話をした。

 当初サービスとホスピタリティの違いを問われ、何と答えてよいか戸惑っていた受講者から、ひとつの意見が出た。

 多くの業界がメインターゲットとしている団塊の世代が元気なのは、せいぜいあと十五年。

 自分たちにとって価値のあるものに対しては、喜んでお金を出す客層だ。

 しかし、今の十代二十代の人は、おもてなしやホスピタリティよりも、自分たちが求める空間や時間が仕組みとしてあれば、それでいいのではないか。

 だからこの人たちに合ったサービス内容をしっかり組み込めばいいのであって、旅館にホスピタリティはいらなくなる時代が来るのでないか、という。

 なるほど、近所の繁盛している和食チェーン店を見ると、料理や飲み物はもちろん、取り皿や子供用のスプーン、おしぼり、水、そして代行車の手配に至るまでタッチパネルで客が自らオーダーするしくみがある。

 店側の人件費削減策であることはもちろんだが、子どもまで面白がってやっている光景を見ると、これがこの客層にとって心地よいサービスなのかと感心してしまう。

 料理や施設では他館との抜きん出た違いは出しづらい。

 旅館は究極のところ、ホスピタリティの質が勝負だと、事あるたびに言ってきたが、これも人によって様々なのが現実だ。

 実際、ホスピタリティとは対極の、廉価でわかりやすいシステムの旅館が一部の客層に指示を得ていることも事実だ。

 これはどちらがいいかとか正解かという類のものではなく、対象顧客の特性や感性、価値観を徹底的に分析し、わが旅館の提供商品をブラッシュアップしてぶつけていく戦略が旅館にとって重要だ。

 それが中途半端で、方向性が客にわかりにくいと、淘汰される原因になることはまちがいない。

 そういう意味では毎日接客はしているものの、顧客を観察し、分析することはまだまだ足りないのではないか。

第320回 地域貢献という役割を担った地方ホテルの例

 このところひとつの企業が単独で事業を継続していくことが困難になることが多い。
 
 そこでいくつかの事業体が連携することにより、新たな商品を作り上げて、新規顧客獲得につなげるという動きが見られる。

 よくある例は、旅館がその周辺の施設やバス・タクシー会社と提携し、セット商品を生み出すという、宿泊と周遊観光の商品化である。

 これは旅行会社のパッケージ商品として古くから存在する形態だが、旅館が中心になって、地域にある今まで観光化されていなかった、一種マニュアックなところを取り入れることにより、全く新しい客層を取り込む動きがでてきた。

 しかしこれも言ってみれば、旅館の商品化におけるバリエーションという発想には違いない。

 これらとはちょっと違った事例を紹介したい。

 当社のクライアントに廃食用油を無料で回収し、これを再利用してバイオディーゼルの燃料にする食品リサイクル事業を展開している会社がある。

 最近、この需要が増え、廃食用油の回収量が足りなくなってきたという。

 そこで知り合いの地方都市ホテルに打診したところ、現状は料金を払って業者に回収を依頼しているという。

 我々の提案に即賛同したそのホテルでは、早速毎日出る廃食用油を専用のタンクに貯え、無料で回収してもらうことになった。

 さらにホテルの従業員の家庭で出る廃食用油についても、ペットボトルに詰め込んでホテルに持ってきてもらうようにした。

 従業員の家庭では、廃食用油を固めて捨てる商品を購入しており、この費用が減るので好評だ。

 さらに今後はホテル周辺の住宅や商店、納入業者、宴会会議利用の地元得意先にも声をかけ、廃食用油の回収量アップにつなげたいとしている。

 これは今までの地方都市ホテルの役割に加え、地域の環境改善とリサイクルに積極的に社旗貢献する企業としての位置づけを、新たに加えることにもつながる。

 商品化のバリエーションを拡大するという発想だけでなく、新たな宿泊業の価値をつくりあげるための連携も、実は身近に結構機会があるものである。

第319回 返済猶予を打診する際に

 大震災で直接の被害は免れたものの、団体客を中心に、相変わらずキャンセルが続いている。

 個人客はゴールデンウイークの連休中には持ち直したものの、連休明けからは動きが鈍い。

 特にウイークデーの空き状況が顕著で、思い切った割引を検討している旅館も多いようだ。
 
 さて、このような状況下で、金融機関に対し、とりあえず半年間の返済猶予を申し込む旅館が相次いでいる。

 金融機関としては、旅館業に限らず、緊急対応を迫られており、案件が多すぎて動きが鈍くなっている傾向がある。

 さて、ある中規模旅館では約定通りの返済を行った場合、数ヵ月後資金ショートが予想されるため、やはり半年間の返済猶予が不可欠であると判断した。
 
 ちょうど決算期を迎え、金融機関には次年度の経営計画を提示したところだったが、急遽リスケの依頼文と修正資金繰り計画表を作成した。

 しかし、この旅館の経営者が考えたことは、返済猶予とはその間の返済をカットしてもらうことではなく、あくまでも先延ばしであり、その分のしわ寄せを今から考えておかなければならないということであった。

 そのためには、個人客を中心とした集客策として、ネット系エージェントと直客のアップを強化するとともに、旅館組織の内部体質を強化していくことが重要だという認識を持った。

 そこで取り組んだのは、損益計算書における費用が特にかさむ科目の重点チェックである。
 
 この旅館の場合は、次の二項目を優先事項とした。

 まずはパート人件費の削減である。客室清掃の体制と作業手順を見直し、質を落とさずにスピードアップを図った。
 
 これにより、目標とする変動人件費削減を毎日チェックしている。

 また、備品消耗品について、頻繁に発生する品目の再見積もりを実施する。

 発注の際には必ず金額を記入し、予算内に抑えること。

 すべての物品について、適正庫数量と発注方法の決まりをつくる事。
 
 これらのことを実行することにより、売上高減少に伴い、必要となるコスト削減に対応する具体策が導き出された。
 
 金融機関から指摘される前に、旅館から積極的に課題解決の方法を提示しよう。