第313回 大震災と今後の対応について

  震災に遭われた地域の方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。

 さて、このような全く予期せぬ外的要因の劇的変化においては、今後どのような推移をしていくのか、予想がつかない。

 これは復旧までの期間がある程度読めるものもあれば、人々が観光目的で動く余裕が出てくるまで、どれくらいの期間がかかるかというようなことについては、かつて経験したことのないことだけに、相当程度としか言えないのが現状だ。

 先の見えないことに対して心配したり悩んだりし続けていても仕方がない。

 今、優先的に行うことは何か。まずは情報が交錯し、二転三転する中で、冷静に事実を把握する体制を確立する事である。

 そしていきなり違う方向に物事が動くことをたえず想定しておくことが大切だ。

 また、キャンセルが相次ぎ、全館休業状態が続く事態が予想される。

 これに伴い当面の資金繰りに大きな影響がでてくる場合がある。

 資金繰り表は日繰りレベルでエクセルに落とし込む。

 そしてクーポンの決済日とともに予約状況からの現金売上予想について、タイムリーな変更が必要だ。

 そして少なくとも1ヶ月先までの見込みを常に視野に入れながら、支払い状況を加味して現金残を予測すべきだ。

 そして業者への支払いや人件費等支出の調整、金融機関や商工会・商工会議所等、今後予想される緊急資金の貸付について、早めの打診が賢明だ。

 そのためにも、刻々と寄せられる情報と現実を、可能な限り正確に捉え、自館の影響を予測して具体的な数値に落とし込んでおきたい。

 また、旅館内の内部体制を再度しっかりと固め、経営者の指示のもと、迅速に動くための情報伝達の仕組みを確立してほしい。

 一方、旅館組合や観光協会においては、正確な情報を得にくい旅館もあるだろうから、組合員に対して十分な情報提供を行うように全力で取り組んでいただきたい。

 春休みを目前にして、とんでもない災害が発生し、この影響が今後出てくるが、とにかく冷静に、しっかりと地に足をつけての対応が求められる。

 今はみんなでスクラムを組んでこの最大の危機に向かっていくしかない。

第312回 「まずまず」から「ダントツ」への脱皮

 ある大規模旅館でモニリング調査を実施した。

 これは継続コンサルティングの初期段階で行う実泊による覆面調査のことである。

 単なるあら捜しではないかという批判も聞くが、われわれはむしろ対象旅館の良さや、伸びる可能性がどこにあるのかといった観点から旅館を見ていくことにしている。

 悪いところは顧客のアンケートや口コミサイトですでに指摘されており、これはその背景や原因をしっかりと突き止め、根本的な改善を図っていけばいい。

 そもそもなぜコンサルティングの依頼があったかといえば、年々売上高が減少し続け、金融機関の支援体制もそろそろ限界の時期に差し掛かってきているなかで、この旅館の再生が成り立つ可能性があるかどうかを見極めることが必要だったからだ。

 さて宿泊後の率直な感想は、「まずまず」の旅館であった。施設はところどころいたんではいるが、清掃はきちんと行われ、付帯部門もそれなりに充実している。

 料理は地元の食材を積極的に取り入れ、話題性のある提供方法を確立している。サービスは特に男性のきびきびした接客が印象的であった。
 
 つまり、細かいことはいくつか気になる点はあるものの、支払った料金に対して違和感を覚えることはなかった。
 
 ではなぜ売上高が減少し続けているのか。

 これは多くの中・大規模旅館にもいえることだが、リピート客の減少、団体客の減少、宿泊単価や消費単価の低下傾向といったことが数字を追えば一目瞭然だ。

 この点についてはいまさら説明する必要もないだろう。
 
 今までどおりまずまずの商品を提供し、既存エージェントへの営業回りをしているだけでは、利益を生み出し、キャシュフローがまわる体質には転換できないということは明らかだ。
 
 課題は顧客があの旅館に行ってみたい、またまたリピートしたいという強い気持ちを抱くようなダントツの商品力がないことである。
 
 他を圧倒するものを作り上げる場合、その旅館が持っている潜在的な力を、選択と集中のパワーを持って一気に作り上げなければならない。
 
 だからこそ、その旅館ならではの良さにこだわるのである。
 
 今まさにまずまずからダントツへの脱皮が必要不可欠な時代なのである。

第311回 ぶれてはいけない意思決定の判断基準

 毎月定期的に訪問している中規模の旅館がある。

 この旅館では、1ヶ月単位で各部署の課題を抽出し、改善のための方向性と具体的な対策を決め、行動に移し、その結果を検証している。

 この1ヶ月サイクルのPDCAを繰り返すことは、旅館全体のレベルアップを図ることが目的であり、その機軸は「顧客により喜んでもらうことにつながるか?」という判断基準で意思決定をしている。

 月1回の会議では、前回の宿題の確認からスタートし、実施状況や結果の報告の後内容について協議が行われる。

 ここでいつも出てくるのが、動きが早く、結果が出て次の課題に取り組む部署と、いつまでも同じことを繰り返し、全く先に進まない部署の差である。

 最終的な指示は、その場で社長が直接下す。案件の内容はそれぞれ異なるが、与えられた期間等の条件は同じである。

 しかし、1ヶ月前に担当責任者本人も同意のもと、決めたことがいっこうに進んでいない部署の報告を聞いていて共通することがある。

 それは①与えられた課題を克服するための1ヶ月間における行動計画がたてられていない。

 ②間際になって慌てて行うので、思惑どおりにことが運ばず、結果が伴わない。

 ③ずさんな結果を報告せざるを得ず、その理由を問われて、他人や周りの環境のせいに責任転嫁する。

 ④繰り返すパターンに、その責任者に対し、周りからの信頼はすっかりなくなり、結果として組織としての円滑な動きが損なわれる、というサイクルだ。

 この担当者には以前から社長自ら厳しい指摘をするとともに、何度となく挽回のチャンスを与えてきた。

 しかし結果として本人はその考え方や行動パターンを変える気がないのかそれともできないのか、今もって変化がない。

 この人に対する社長の判断は、部署の異動であり、それでもその部署で期待される結果がでない場合は、退職である。

 その理由は、顧客により喜んでもらうため自分が行うべきことをまっとうできないからだ。

 この判断基準は極めて明快であり、顧客・旅館・本人の全てにとってベストな洗濯だ。

第310回 全く異なる金融機関の対応

 ある旅館がちょっとしたリニューアルを検討していた。

 その内容は、食事処をいす・テーブルでの提供スタイルに変更するため、これら備品の調達および雰囲気を変えるための造作である。
 
 座布団に長時間すわるのは、若い人はもとより足腰に負担をかけたくない高齢者にも、敬遠されつつある。

 顧客の要望に旅館が応えるのは当然のことであり、経営者はその必要性をリニューアル計画書に取りまとめてメインの金融機関へ出向いた。
 
 この銀行は、十数年前に旅館本体を設備投資したときからの付き合いで、その後も事あるたびに、世話になってきたところだ。
 
 支店長や融資の担当者は数回代わったが、引継ぎもスムーズにおこなわれてきた。ところが今回はちょっと雰囲気が違った。
 
 支店長は、苦心して仕上げたリニューアル計画書を、ほんのわずか眺めたかと思うと、「御社の経営状況からして当行のプロパー融資は難しい。

 県の信用保証協会に打診するのでしばらく待ってほしい」との返事。
 
 わずか十五分たらずのやり取りに、ずいぶんクールな対応だとの印象を持った経営者だった。
 
 その後何の連絡もないまま一週間が過ぎた。

 しびれを切らしたこの経営者は銀行に連絡を入れたところ、ようやく担当者が旅館を訪れた。
 
「売上高に対して借入額の割合が高いうえ、つい数ヶ月前にも運転資金を借りたばかりだ。

 今回さらに借入額が増えれば、今以上に資金繰りが苦しくなる」というのが保証協会の見解だという。
 
 この話を聞いた経営者は、担当者に詰め寄った。

 「保証協会の見解はわかったが、メイン行であるお宅はどう思っているのか?」

 これに対して明確な回答がない姿勢に限界を感じた経営者は、知人の勧めで別の金融機関を紹介してもらった。
 
 幸いにもこの銀行は、経営者の話を親身になって聞き、運転資金と設備資金のバランスを調整したうえで、支店長自らが何度も保証協会に出向き、融資が決定した。
 
 後になってわかったことだが、前の銀行は、担当者が事務的に保証協会へ打診しただけだったのだ。
 
 すべての案件に通じることではないが、金融機関の動き方によって、結果は大きく変わることがある。

第309回 「顧客満足」と「従業員満足」

 首都圏近郊のある温泉地に立地する客室数20室に満たない小規模旅館のことである。 
 
 財務的には毎期フル償却をして経常利益を出し続けている。数年前にリニューアルを行ない投下した資本を順調に回収してきている。
 
 山に沿った敷地に立てられた旅館は、施設的にはいろいろな制約があり、客室や廊下等のパブリックは、かなり狭い。しかし、経営者や女将のセンスが光る演出が随所に施され、マイナス面を十分カバーしている。
 
 客は直のリピート客と口コミ評価の高いネット系エージェントからの送客が大部分をしめ、既存エージェントとの付き合いはほとんどない。
 
 スタッフは20代、30代が中心で、最近流行の元気なラーメン店を連想させる。
 
 そして社長以下全員で接客、掃除、企画等あらゆる仕事を何役もこなす。また、客をどうやったらもっと喜んでもらうかというテーマで、毎週ミーティングを行い、その結果をメルマガで随時発信している。
 
 この積み重ねが、旅館のレベルを少しずつ上げ、コストパフォーマンスの高い宿として定評を得ている。
 
 この旅館ではチェックアウトが12時、チェックインが14時という時間帯を設定しており、このわずか2時間のうちに、いかにして館内を清掃しすべてをリセットするかということで半年取り組んできた。
 
 このような普段客の目に触れることのないことも、ネットで告知していく予定である。
 
 これは顧客満足(CS)だけではなく、同時に従業員満足(ES)も同時にアップさせていかなくてはだめだという経営者の哲学がある。
 
 たしかに顧客満足をアップさせるためには、従業員がその気になり、仕事のやりがいを従業員が感じなくては成り立つものではない。
 
 この旅館は従業員が一生懸命笑顔で働いている。それは働き甲斐を感じているからであり、職場としての旅館のあるべきモデルとなっている。
 
 従業員が言うことを聞かないとか、レベルが低いというばかりで一向に状況が上向きにならないところが多いが、その旅館の「あるべき姿」を経営者自らが、具体的にイメージできていないことがそもそもの原因だ。