先日、知り合いのフレンチレストランオーナーシェフから、洋食レストランへの業態転換の相談を受けた。
地方はもちろん東京でも正統的なフランス料理を提供するレストランは経営が成り立ちにくく、ブライダルや創作フレンチ、和食とのコラボといった新展開をしなければ客がついてこない状況にあるという。
この現象にはいろいろな背景があるが、中でも大きいのがメインターゲットの高齢化にあるという。
今、このレストランの中心客層の年齢は五十代後半から六十代前半だという。
二、三十代の客はランチには来店しても、夜の来店はまず見込めないとのと。
このオーナーシェフは、これから五年先までを想像すると、今の客層が自然減し、経営が成り立たなくなるのは必至だとの見通しをたてた。
そこで客単価は大きく落ちるものの、幅広い客層に間口を広げた洋食という分野に転換し、しかもフレンチシェフがつくる本格洋食という特色で差別化を図る目論見だ。
今までターゲットとしていた客層が時の流れとともに減少し、次の世代が全く時代感覚や価値観が異なるため、今のままのスタイルでは将来が見込めないというのは、旅館経営にもそのままあてはまる。
しかし、これから五年先のスパンで人々のライフスタイルの変化を予想し、旅館という業態や提供サービスの中身を検討している旅館は非常に少ない。
それどころか、五年前と現在は確実に客が変化しているのにもかかわらず、旅館が何も変わっていないという実態がある。
旅館が今後も存続していくためには、変わらない根幹の部分はともかく、変わっていくべき部分が相対的に多いのではないか。だが、今までの経験や実績、前例をベースに物事を考えたり判断したりする癖があると、時代の波に取り残された旅館になってしまう。
レストランも旅館も来店してもらえなければ何も始まらない。どんなにおいしい料理や伝統ある店であっても、客がわざわざ利用する価値が見出されなければいけない。
今後の経営戦略はこのような顧客の価値基準の変化に基づく行動パターンを機軸に意思決定されなければ、判断を誤ってしまう。
| 2011年02月15日|
ある旅館で商品企画会議に参加した。前年のチラシをもとに加筆修正をしたものができあがりつつあるところで社長から「待った」がかかった。
一度すべてリセットして全く新しい発想で商品をつくっていこうということである。
これには毎回プランを作っても計画通りに売れたためしがないという背景がある。
ちなみに他の旅館がどのような商品を出しているかをネット検索してみた。ほとんどが「企画」あるいは「プラン」という名称を使い、見れば見るほどその差が分からなくなるものばかりだ。
今回、この旅館で力を入れようとしているグループ客向けの「記念日商品」においても同様だ。
記念日と称しながら大半が料理内容の説明で記念写真を有料で撮りますというわずかばかりのソフト対応がついているにすぎない。
結局はプランの数が増えるとともに、料理の内容も多岐に渡り、厨房がパニックになるだけである。
要するにソフト面の特徴にはほとんど手をつけず、料理の内容でバラエティさを出す方向に走っているのである。
客から見れば、記念日を演出してくれる提案がないため、結果的に料金交渉で選択が行われる。これでは利益の生まない商品をつくって販売する従来の繰り返しと
なってしまう。
そこで料理のバリエーションはあえて極力変えず、記念日には何をしたら客に喜ばれるかをテーマに商品開発を行うプロセスを提示したのである。
今、客から見れば横並びの商品を提示している多くの旅館の中からどこを選ぶかは、施設と料金と口コミの要素が大きい。
目に見えない人的サービスや料理は、体験して初めて評価が得られる。
もちろん地元であれば、それぞれの評価が定着しているところであるが、客の心を捉えるものは、利用目的を明確に把握したうえでの旅館側の対応姿勢にある。
わが旅館ならではの客に対する提供サービスを構築し、展開していくことは集客アップにおいての原点である。
客の共感を得ないプランの羅列では、売れない商品を掲示しているにすぎない。
出来上がったプランのチラシを手に取り、旅館名を隠してみたら、自館の特色が一目
瞭然に分かるだろうか。
| 2011年02月08日|
数年前、首都圏近郊のある温泉地に対して活性化の提言を取りまとめたことがある。
その温泉地はかつて団体旅行が華々しかった頃は賑わいを呈していたが、その後地すべり的に入り込み数の減少傾向が進み、多くの旅館が厳しい経営状況にあった。
このまま時が過ぎていくと、この温泉地全体の灯が消えてしまう危機感が漂っていた。
そこで個々の旅館のレベルアップとともに、地域で客を呼び込むスキームを確立し、全体で取り組んでいくことが急務であるという方向性を示した。
当然具体的な行動プロセスをセットで提示し、これからが再スタートだと位置づけた。
しかしながら残念なことに、その提言書は観光協会や各旅館の事務所の棚におさまったままのようである。
この地では年に数回の決まりきったイベントの開催と単発のキャンペーンに留まっており、客が入る時期は限定されている。
日中、温泉街を散策すると、あるじのいない飲食店や土産店、旅館の残骸がそのままされている。
せめて更地になればいいが、土地の権利の関係でちぐはぐな景観が客を迎えている。
この地は歴史ある温泉地で、昔からの派閥が存在し、政治をはじめとして何かと地域が二分されてきた経緯がある。
だから普段表向きは仲がよさそうに振舞っていても、どちらか一方が何かをやろうとすると、その中身はともかく、誰がその意見を言っているかによって地域の体制が決まってきた。
我々部外者から見れば、そんなことを続けていたら、両方とも生きていけなくなるという警告を突きつけたのであるが、残念ながら結果としてそれを聞き入れることはなかった。
数年後その地は、さらに旅館の倒産や廃業が続き、一部外部資本が入り込んで営業をしている旅館はあるものの、地域の魅力がますます乏しいものとなってきている。
当時青年部を中心として、これから数十年を見据えたビジョンを自ら作り、実行していく以外に方法はないと、ひざを交えて語りあったが、その後実行する途中で、はやばやとあきらめてしまったのである。
白旗を揚げた彼ら自身、一番後悔が残るだろうに。
| 2011年02月02日|
年は改まったが、旅館業界を取り巻く経営環境は依然として厳しい状況であることに変わりはない。
昨年は、「中小企業金融円滑化法」の施行により、各金融機関はリスケを要求した旅館に対し、積極的に応じてきた。
この結果、中期的に見れば、一時しのぎではあるが、資金繰りが厳しい旅館にとっては返済の猶予が認められ、何とか年を越せたと感じている経営者も多いことだろう。
しかし一方で、いわゆる第二会社方式で債務を飛ばすことを考えていた旅館に対し、債権者である金融機関は「それは認めない」として緊急避難的に会社更生法を申請し、事業譲渡をストップさせることも起きている。
会社更生法だと代表者以下、経営者を排除するため、新しい運営組織が必要になるが、これがスムーズにいかないと、金融機関としてもこのスキームが頓挫してしまうことになる。
また、中小企業再生支援協議会に持ち込まれる案件についても、要はメインの金融機関が、対象となっている旅館をどのようにするかで、結論が決まる。
しかし、その方向性が途中二転三転するケースもあり、結局は金融機関に差し戻されるケースもある。
このように、メインの金融機関の都合や状況により、対象となる旅館の運命が決まるといっても過言ではない。
また、旅館名は変わらないため、マスコミには載らないものの、オーナーチェンジによるものも含めると、「再生」と称する旅館経営の再編が今年も続いていくことが予想される。
このような旅館を取り巻く外部経営環境は自ら変えることはできない。したがって、各旅館が最優先に目指すことは、減価償却を行ったうえで単年度黒字を出すことである。
これは、例え多額の債務があったとしても、この旅館が事業継続を行う力があると判断される。この前提があるのとないのとでは、金融機関の方向性が百八十度違う。
事業経営として利益が出せれば存続の可能性が高く、出せなければ何らかの形で市場から退場するという、極めてシンプルな基準である。
これをいかにして達成させるか、経営者の戦いが今年も続いていく。
| 2011年01月19日|
ある旅館の営業戦略会議にオブザーバーとして出席した。
今までは、収支や入込み計画と実績の差異を出し、その分析と次月以降の計画達成のための行動予定を確認していた。
しかし、これを繰り返していても、抜本的な改善にはほど遠く、「やり方が間違っているのではないか」と、経営者が一言。
そこでこの旅館の売上実績を再度分析してみようということになり、顧客を組み人数別で「個人客」「小グループ客」「団体客」の三パターンに分類した。
そして月別に売上、宿泊単価、二次消費単価、総消費単価、人数、構成比を数字に落とし込み、傾向を探ってみた。
その結果、個人客はネット系および自社ホームページ上からの集客が確実に伸びている。宿泊単価は最も高いが、二次消費が低い。
団体客は旅館の直営業が獲得している団体だが、価格競争の影響を受け、宿泊単価の低下が著しい。
二次消費はまずまずだが、宿泊単価の低さが足を引っ張り、総消費では思ったほど伸びていないことが分かった。
一方、「小グループ客」は宿泊単価が個人客に追随し、二次消費額は最も高かったのである。
この結果、最も歓迎すべきカテゴリーは五人から一〇人程度の「小グループ客」であることが明らかになった。
ところがこの旅館では、個人客と団体客向けの企画プランや営業方法は確立されているが、小グループ客に対しては、実際何もしていなかったのである。
そこで「小グループ客」向けの商品をいきなり考えるところであるが、その前にこれらの客について、「予約カテゴリー、宿泊目的、料理ランク、人数、単価および現場でのヒアリングや観察」といった内容で実態調査を行うことにした。
小グループ客は、同窓会等の記念日や、毎年の集まり等、宿泊目的が明確な場合が多い。
ならばそれらのカテゴリー別に、さらに喜んでもらう商品やサービスを展開することで、積極的な営業展開が可能になるのでないかという目論見だ。
たしかにバス数台で訪れる団体客が激減し、個人客にシフトしたということで、どこの旅館も個人客狙いの提供商品になりつつあるが、いま少し、自館の顧客分析を行うことで、他館とは異なる提供商品と営業展開をする必要がある。
| 2010年12月25日|