第288回 新幹線開通を期に取り組むべきこと

 久方ぶりで青森県を訪問した。ねぶた祭りの直前という時期であったためか、以前より活気が戻ったような感じだ。そして、いよいよ今年暮れには新青森八戸間の新幹線が開通する。 交通アクセスが便利になることで集客アップを期待している関係者は多い。

  しかし、5年後にはこの新幹線も函館まで伸びることになり、その時点で、青森はへたをすると単なる通過都市になる危険性を大いに含んでいる。

 したがって、今のうちから魅力ある観光地としての位置づけを確保すべく「結集!青森力」を合言葉に行政をはじめとして、様々な取り組みがなされている。

 この一連の活動のなかで、資本力がない観光関連業者たちが、横の連携を十分に意識した商品を構築し、新幹線利用者に対して売り込んでいこうと、様々な商品が企画されている。

 このような一大イベントを目の前にして、企画作りに懸命になり、それをサポートする行政とともに、青森の魅力を発信し続けることに対しては大いにエールを送りたい。

 ただ、ここで肝心のことがある。それはそれぞれの事業所が利益を出し、キャッシュが円滑に回ることである。このことなくして、いくらイベントを行っても事業経営が続かないのでは本末転倒だ。

 青森県内の観光関連施設を覗いてみると、やはり団体客が大幅に減って個人・グループ客が主な客層になっている。

 したがって、団体客が大多数を占めていた時代と比べると、集客数や売上絶対額が減少しているところが大部分である。

しかし、ここで差がでるのは売上が減っても、結果として利益が出る経営体質にシフトした事業所と売上高の減少に伴って赤字が続くようになった事業所である。

客層が変わると、求めてくるものが変わる。その変化に対応するために経営体質を自ら変える。これを実現しない限り規模の大小は関係なく市場からの撤退を余儀なくされる。

過去の延長で生き残れる時代はとっくに過ぎ去った。革新的でその価値がわかりやすいところが顧客から支持される。青森においても、新幹線開通を期にその真価が問われることになる。

第287回 「郷土文化伝承の宿」の商品発想

 ある小規模旅館へ出向いた。ここは泉質のよさを売りにしており地元客の日帰り利用と宴会を伴った宿泊が主な客層だという。

 施設の老朽化が目立ち、客室の多くがアウトバストイレであるため、大手エージェントからの送客は皆無に近い。

 自ら打って出なければ、この先売上の低下は避けられないことは明白だ。そこで経営者は近隣の体験型窯元や有名文人の生家、郷土の文化関連観光施設とタイアップし、周遊型観光と宿泊をセットにした独自の商品を作成し中小エージェントに売り込んでいった。

 努力のかいがあって少しずつではあるが、このタイアップ商品が売れ始めていった。

 本来ならば、旅館は施設・料理・サービスといった基幹商品についてのレベルアップを図り続けなければならない。しかしながら、資金的、能力的、人的な面から理想的な展開を図っている旅館はごく一部にすぎない。

 ならば、このハンデを克服する手立てはないものだろうか。この旅館経営者は旅館を基点とした地元ならではの連携商品を複数開発することが不可欠であると考えた。

 そこで「郷土文化伝承の宿」というコンセプトのもと、地元で埋もれている歴史・風習・遊び・料理・芸能・施設等をピックアップし、ひとつずつひもとくことからはじめた。その結果、かつて数十年前に盛んに行われていた指人形劇が目に止まった。しかし、後継者がいなくなってしまい消滅寸前の状態だという。

 旅館経営者は地元の人々にとってはとても懐かしい指人形芝居を宴会場で復活させ、やがて定期的な上演にまでこぎつけた。

 ウイークデーの高齢者団体を主なターゲットとして、昼食つきでの商品化に成功したのである。

 これは社会的にも意義のあることだということで各マスコミの取材も多く、結果的に宣伝効果も得た。

 今後はこの指人形芝居をきっかけとして、さらに郷土の文化の発信基地として旅館の立ち位置を定め展開を図っていく計画だ。

 基幹商品のみで他館との差別化を図り、集客していくには限界がある。だとしたら、旅館を取り巻く環境を見直し、それを取り込んで旅館商品を構築する発想を持つことも悪くはない。

 第286回 課題解決は根本原因の解明から

 ある中規模旅館での出来事である。現場の課題を見つけ出し、解決を続けることで提供商品のブラッシュアップを続けている。

 ある日、厨房から社長に、最近食器の破損が目立つとの報告を受けた。そこでまずは破損の現状を把握することからはじめるため、毎日の破損した食器を集めて写真を撮り記録するとともに、各フロアおよび宴会場のパントリーと洗い場に幹部社員を抜き打ちで配置した。そして現場のオペレーションがどうなっているのかを確認した。

 その結果、残飯や飲み残しを捨てることなくコンテナ(ばんじゅう)に入れていること、また、ガラスや食器、コンロも分別することなく、ひとつのコンテナに押し込んでいた。

 これがいたるところで行われていたため、コンテナが数多く必要となるとともに、食器の破損があとをたたない直接的な原因であることが判明した。

 経営サイドでは、当然この直接的な原因をクリアしていくとともに、なぜこのようなことになっているのかという、根本的な原因が必ず別のところにあるはずだという仮説を立てている。

 そこでさらに現場スタッフの行動と意識を調査したところ、接待係は団体・グループ客を二次会に誘導し、同席することができたとしても、下善の仕事があるため、すぐに二次会の接待へ移行することができず、機会損失が生じる場合が多いという。だから、できる限り早く下善をすませ二次会会場へ合流するために下善のオペレーションがぞんざいになってしまっているということが判明した。

 経営サイドでは、接待係が団体客を二次会へ誘導し、二次消費拡大に貢献することは大歓迎である。この場合の売上と、これをスムーズにするために下膳専門の臨時スタッフを数名雇うことのコストを計算し、団体客の入り込みに対応できるスタッフを即座に増やした。

 このような一部の現場だけでは対応できないが、部門間の連携と大局的な判断で一気に解決できる課題が結構あることがわかった。

 まだまだ他の部署に対しては無関心という風潮が消えてはいないが、このような結果をひとつひとつクリアしていくことでブラッシュアップが確実に実現していくのである。

第285回 予約行動に直結するプランをつくる

 夏休み真っ只中、今年は予約の発生が遅く、やきもきした旅館も多かったことだろう。

 宿泊客が集中するこの時期、館内の繁忙とともに、地域のお祭りや花火大会等イベントにも大忙しという話しを聞く。
 しかし、この状況も時が過ぎればいっせいに静かな時期がまた戻ってくる。この閑散時期の集客について今から手を打っておかなければならない。

 食事処をリニューアルしオープンキッチンにしたり、個室の露天風呂を新設したことにより集客アップを図りたいとする旅館がある。

 たしかにこれらは最近の顧客ニーズやスタッフのオペレーションを考慮したことによる効率的かつ訴求力のある設備投資の傾向なのかもしれない。

 ところがハードが充実したら、同等の設備を有する他の旅館が新たな競合旅館として出てくる。したがって、設備投資だけでは集客アップの目標を達成させることが難しいというケースが現実だ。

 ハード以外の企画プランで勝負をかけようとしているところもあるが、それが顧客の立場から旅館を選ぶ強力な要因となっているかどうかを十分に検証する必要がある。

 なかには非常に多くのプランを作り、ホームページに掲載している例があるが、見る側からすると、それぞれの違いがよくわからなかったり、そのプランのセールスポイントが見えなかったりすることがある。

 そうすると、複雑なプランの弊害が現場のオペレーションの混乱を招く結果となる。これで、計画した集客の数値を達成できればまだいいのだが、それも大幅に下回りデメリットだけが現場に取り残されるようなことでは本末転倒である。

 魅力的なプランとは、対象となる客層から強い共感を得る独自の企画内容が存在するかどうかが大きなポイントである。例えば乳児連れの家族を対象としたプランでは、チェックインからチェックアウトまでの流れのなかで、いかにこの客層を対象とした独自の商品やサービスを連続して盛り込むことができるかというものだ。少しばかりの優遇サービスレベルでは予約の行動にはとても結びつかない。プランは予約のスイッチが入るかどうかで価値が決まる。

第284回 顧客のストレスを取り除くという発想

普段、顧客に提供しているサービスの内容について常に検証しメンテナンスを繰り返している中規模旅館の事例を紹介したい。

 この旅館の経営者は、日常業務がマンネリ化することをとてもおそれている。このマンネリ化がスタッフの気の緩みを生み、顧客が離れていく根本原因のひとつになると考えている。

 したがって、毎月一回、「サービスメンテナンスミーティング」を開催し、サービスに関する軌道修正を行っている。

 具体的な方法は、館内アンケートやネット系の口コミサイトの書き込みの総点検からスタートする。また、現場の各責任者からあげられた課題や顧客の要望を含め、ひとつひとつ検証をしていくのである。

 その際、大きな基軸となっているのは「顧客のストレスを取り除く」というキーワードだ。

 例えば、以前この旅館の高額個人客に対しては、チェックイン時に例外なく抹茶を提供していた。このサービスは旅館の格式を高め、顧客にとっても満足してもらうものであると思い込んでいた。抹茶の提供サービスがブームになりかけたときのことである。

 ところが実際には茶道をたしなむ顧客はごく一部。不意に出された抹茶を前に戸惑い、スタッフが見ていないときを見計らって飲み干すケースが多かった。

 現場のスタッフからの指摘を受け、ウエルカムドリンクをチョイスしてもらうようにしたところ、顧客から笑顔が生まれるようになったという。

 旅館が良かれと思って実施しているサービスや、旅館の都合で日常的に繰り返しているオペレーションにはこの手のものが多い。

 いつ客室係が部屋に来るかわからないというストレスに対しても、ご案内時とフトンを敷く時以外は、依頼がない場合を除き伺わないという案内を告知することとした。

 「癒しの空間でリフレッシュ」とうたいながら、じつは正反対のことをし続けていることに気づかない場合が結構ある。

 顧客にとって居心地のいい空間と時間というのは、決して画一的なものではない。人によってあるいは時と場合によって異なるものである。だから臨機応変の対応も含めたサービスをいつも意識しているのである。