第283回 夏休みは旅館ならではの企画で

夏休みシーズンが迫ってきた。旅館ごとに予約の発生状況を確認してみると今年は例年にも増して発生が遅く、やきもきしているところが多い。

 以前は夏休みといえば、何もしなくても予約が早い時期から発生したものだが、それも陰りが見え始めた。そこで子供向けのイベントやプール・バイキング等の商品企画でエージェントも特集を組んでいる。

 しかし、このような企画を組むことができる旅館は一部レジャー対応の設備投資を行っている大型旅館に限られる。大方の旅館は既存の商品を工夫して集客を図るしかないのが現実である。

 夏休みはどこに行きたい?とキーパーソンである子どもたちに聞くと、定番のディズニーランドや最近話題のキッザニア東京という答えが返ってくる。また、ただプールがあるというだけでは満足せず、レジャーランド化したグレードの高い施設を有する特定の施設の名をあげる。

 考えてみれば、公共のプールもかなりハードが充実し、廉価で利用が可能である。このように夏休みを自分たちの都合に合わせてどこで何をして楽しもうかという選択肢はかなり広まった。

 そんな中、旅館は集客するための魅力的な商品を作り上げていかなければならない状況にある。ハードにはおのずと限界がある前提で何を提供するか、工夫して商品を作り上げているところもある。

 ロビーやイベントホールを縁日の設営をして祭囃子で盛り上げる演出。親子で手作りおもちゃを製作するイベント。その土地の昔話を聞いたり、お笑い芸人や手品師のパフォーマンスで楽しんでもらおうとする企画。自然環境を利用したガイド付きの早朝散策やホタル鑑賞等々。

 これらは決して派手なものではないが、普段の日常生活ではなかなか体験することがないものを旅館が提供することによって集客に結び付けようとするものである。

 親子の忘れられないいい思い出になるためには、何があったらいいか?こんな発想で旅館ならではの提供商品を作り上げることが大事なポイントとなる。

 さらに、一泊二日という期間の中で親子の絆を深めるための機会を連続してどれだけ埋め込むことができるかということも、魅力度をアップさせる大きな要因だ。

第282回 宿泊モニターを有効活用する

 ある旅館で館内アンケートやネット系エージェントの口コミサイトで利用客のコメントを追っていた。

  たまにではあるが、猛烈なクレームとともに極端に低い評点しか与えられない場合がある。

しかも総じて全ての評価が低くなる傾向が強い。つまりその客にとって極めて悪い感情が生まれた場合、それ以外のものも全て悪い印象になってしまうのである。

 この旅館では、そのようなクレームに至る前の段階で予兆を発見し、事前に改善を図る動きを社長中心に取り組んでいる。

 その方法は、宿泊のモニタリングである。公募による宿泊モニターを募集し必要チェック事項および主観的な感想も含めた客目線での商品チェックを不定期に実施しているのである。

 アンケートや口コミは絶対量が少ないため、これだけでは判断材料としては物足りない。そこで、モニタリングを活用することで館内の生情報を顧客の立場から提供してもらうことにしているのである。

 モニタリングにおいては客観的事実を報告しそれに対してどのように感じたかを思いのままにのべるパターンである。

 この制度を取り入れる前は、クレームや問題点が浮き彫りになってからはじめて旅館として対応に動き出すという流れだった。しかしそれでは後手に回ると判断したこの経営者は、まず現状の課題抽出にパワーを投入したのである。

 その結果、館内の日常の動きが手に取るようにわかるようになってきた。そして、今まで気づかなかった旅館や従業員の都合第一主義のオペレーションを顧客感情主義のオペレーションに変えていく機軸となったのである。

 スタッフ同士が問題点を指摘しあうと、どうしても現場がぎくしゃくし本当のことを言えない場合が出てくる。

 しかし、しがらみのない第三者のモニターの指摘は非常にドライかつ客観的である。したがって、それが課題であるという認識をスタッフが共有するのに時間がかからない。だからすぐ改善のためのプロセスに移行できるメリットがある。

 モニタリングによって提供商品やオペレーションの向上を図ることは、かなり有効な手段だ。

第281回 オペレーションの現状を「見える化」するメリット

 業務のオペレーションを改善し、よりいっそう旅館のレベルをあげることは、経営者の大事な仕事のひとつである。

 このことについては誰も異議を唱えない。しかし、これを徹底して実行し続けているかどうかにおいては、旅館によって相当の差がある。

 現場に対して長い間実施してきたオペレーションの方法を変えようとすると、必ずといっていいほど反発がおこる。

 それは今までの方法に慣れ親しんできたわけだから、新しい方法に変えていくには結構労力が必要となる。これがしんどいため、なるべく今までどおりの方法が現場ではベストなのだと主張する。

 しかし、このことに妥協して現場にノータッチを続けていると、そこから音を立てて崩れてくることがある。

 ある旅館では、営業マンの管理を経営者が全くせずにいた。年々エージェントからの集客が落ちるのにもかかわらず、あいかわらず同じ動きしかしていない営業に、メスを入れた。

 まず、各営業マンがエージェントの訪問予定一覧表を作成し、部門長から形だけの承認を得る。そして各自訪問営業を繰り返し、その結果は日報記述と月一回の営業会議で口頭での結果報告に留まっていた。

 これが、長い間続いていた営業部門のオペレーションである。経営者が知りたいことは、どのエージェントがどれだけの売上・利益・集客の貢献をしているか?それに対するコストはどれだけかかっているかをもとに、経営効率上、最適なエージェント営業を実施することである。

 したがって、訪問目的、営業内容、結果とその履歴、交通費・接待費等も含めたコスト、実績(売上・単価・集客人数)を月別・営業マン別・エージェント別に「見える化」の実施を指示したのである。

 営業の現場からすると、「ぬるま湯」に使っていた部分が明確になるため、理屈をつけてできない理由を探してくる。

 でも、この旅館経営者は、経営力のアップのために必要な業務改善には摩擦をおそれない信念をもった。

 経営の意思決定の判断を間違えないためには、現場の事実を把握することが非常に重要であることを身をもって体験した。

第280回 安易な宿泊単価のダウンは命取り

 地域の観光イベント強化や高速道路のETC割引の効果等が重なり、観光地としての入り込み数が増えたという話を聞く。ところがそれにもかかわらず、宿泊客数は減少したという地域が多い。

 ある旅館では、減少傾向に歯止めがかからない団体客の増加は見込めないと判断し、グループ・個人客に的を絞った集客にシフトした。

 そこで出した経営の見通しでは、定員稼働率は減少するものの、客単価アップでその分を補填しようとする目論見があった。

 しかし、当初計画した宿泊単価二万円では計画数値の入込みを達成されることができず、対策に苦慮していた。

 周りの同業者も同じように主要ターゲットをシフトしてきている。

 そして同じように集客が伸びないため宿泊単価を思い切って数千円ダウンさせるという旅館が出てきた。最初は限定商品として様子を見ながらのスタートだったが売れ筋がこの商品にかたまったため結果として宿泊単価のダウンを断行したのである。

 この影響が周辺の旅館へ瞬く間にでてしまい、他の旅館も宿泊単価の設定を大きくシフトダウンしてしまった。

 一昔前の遊興を伴う団体客は宿泊単価が低くても二次消費が見込まれていたので、最終的な消費単価が二万円前後で終始していた。

 ところが個人客は二次消費がほとんど期待できないという特徴をもっており、宿泊単価が比較的高いことが唯一の救いだった。

 しかしながら、その肝心の宿泊単価を下げざるを得なくなったため、結果として収支は大幅な赤字を計上することとなってしまった。

 この旅館では価格をさげても利益が出るように、原価・経費の見直しを急遽行っている。いささか順番が逆になってしまっているが、とにかくこの路線で走る以外に方法はないと考えたのである。

 単純に宿泊料金の値下げだけに頼ると、利益がでない体質になってしまうので非常に危険である。

 今特に重要なことは宿泊単価の変動に伴い原価・経費をいかにコントロールし、利益獲得とキャシュフローが回るしくみを自社でつくりあげるためのシミュレーションが急がれる。それには原価・経費の数値とその内容が明確にわかるように整理できていることが大前提だ。

第279回 事例研修の場で気づいた行動改革

 ある三十代の旅館後継者から話を聞く機会があった。

 バブル崩壊後、この旅館では厳しい経営環境が続いたが明快な解決策を打つことができないまま推移してきた。

 当時は学校に通い大学卒業後地元の企業に就職、数年の時を経て自分の親が経営する旅館に就職した。

 フロント係りを経て営業回りを行うようになり数年が過ぎた。

父親からもそろそろ後継者としての認識を持つようにと言われある日決算書を渡された。

 経営状況は厳しいと何となく認識はしていたが、目の前の決算書をもとに社長が説明した経営内容に驚愕した。

 それからは社長の仕事を補佐する役目に転じ地元や業界の会合にも出席するようになった。

 そのようななか、旅館経営を抜本的に立て直すための役割が自然に自分の役割となってきた。

 ところが思いつきで現場の先輩従業員たちに意見を言ったところで、できない理由ばかりが返ってくる。表向きは後継者ということで、それなりの扱いを受けるのではあるが腹のそこでは「若いボンボンが何を言っている」という感情が伝わってくる。

 自分の立場としては、何とかこの現場を変えていかなければならない。しかし、おぼろげな理想像に向かって何をどのようにすれば、よくなるのか全く見えない状況が続いた。

 知識の習得にと、ビジネス書やインターネットでの情報をむさぼるように収集した。 しかし、原理原則は理解できても現実は教科書どおりにはいかないというジレンマに陥っていた。

 そうしたなか、地元とはかけ離れたところで、同じ悩みを持つ後継者たちが集まって現状の課題をどう克服していくかついて事例研究する場に参加することができた。

 参加人数分の仮設と検証のシミュレーションを体験した後継者は自分の旅館に戻り、指示だけをするのではなく先頭を切って現場で行動をした。

指示される立場の気持ちを理解せ、一方的に指示を連発しても誰もついてこない。このことを事例研修の場で気づいた後継者は「いきなり人を動かすことはできない。自らが動くことで人は意識が変わることがある」ことを実感した。

 「あのボンボンがあそこまでやるんだったら」と思ってもらうまで動くことだ。