提供商品の品質は決して悪くはないのに、集客が計画に対して思うようにいかず、苦心している旅館は多い。
このところ、勢いがある新興勢力の旅館ばかりが目立っているかのようであるが、顧客が旅館を選択・決定する要因はいったい何かということを改めて検証しなければならない。
業界で認識されていることは、宿泊料金の安さ、年間統一料金、無料あるいは格安での送迎バスの存在、認知されるまで繰り返す新聞広告、ネット系エージェントでの口コミ高評価等があげられる。
一口に旅館といっても対象となる客層は様々であり、宿泊目的や料金、そして何をもって満足するかということは、それぞれ異なる。
大事なことは、わが旅館の対象顧客はどのような特性があり、何が宿泊の選択決定要因となるか。また、競合する旅館はどのような対策をとって集客を実践しているかを検証すべきである。
かつて、エージェントからの集客が多く、個人、団体とも入り混じっていながらも、結果として資金が回っていた旅館が総じてピーク時の半分しか集客できない状況に陥っている。
その理由はいろいろ分析されているが、計画を達成するだけの集客ができていないということは、現行の方法ではだめだということだけははっきりしている。
顧客が旅館を選択する要因は実は単純である。これは理屈ではなく感情・感覚の世界だ。だからこそ、対象としている顧客をよく観察、何がわが旅館に足りないのかをはっきりと見極めることである。
それは提供商品なのか、あるいは顧客の満足感をうまく表現し、告知し、広く認知してもらうことなのかもしれない。
いずれにしても、リピーターというのは自然に減少していくものである。だから、まだわが旅館を知らない見込み客に対し宿泊予約の行動をとってもらうためのプロセスを、自らつくり上げることが求められている。
顧客が不満足だという声が多い旅館が淘汰されるのは自然だ。しかしとてもよかったと評価が高い旅館がそのような経過をたどるのは、なんとしてもくい止めなければならない。
| 2010年06月04日|
金融機関から次年度経営計画の提示を求められている旅館の話である。 経営者は財務担当者に対し、すでに作成済みの中期経営計画の数値を基に次年度経営計画作成を指示した。
財務担当者は得意のエクセルを駆使して、部門別の売上と原価そして経費の詳細を前年の割合を基に一瞬のうちに導き出した。そして季節変動指数をかけて月別の損益計画を作成し経営者へ提出した。
経営者はこれを金融機関へ、そのまま出しこれで一段落だと予想していた。 ところが金融機関の担当責任者からは、財務的には整合性がとれている。ではこれをどのように実現していくかというプロセスを聞かれ、ことばにつまってしまったのである。
この旅館は経営計画を作成するものの、あくまでも決算書ベースの損益計画であり、現場でそれを落とし込んでいくことはしていなかった。だから予実績管理会議と称する毎月の検証の場においても、あくまでも計画と実績の差異について、その原因を想定して理由付けすることの繰り返しであった。
計画値を達成させるためには、売上部門がそれぞれ独立した事業体であるという認識がまず必要だ。したがって売上確保の基となる日ごとの入り込みと顧客特性、つまり個人客やグループ客、団体客のウエイトがどの程度なのかによって、宿泊単価や二次消費の売れ方は必然的に変わってくる。
例えば、圧倒的に子供連れの個人客が多い日はクラブの売上が低くなる。そこで個人客向けに売店のキッズコーナーを前面に出して購買頻度をアップさせるなど、機動力を駆使した対応が求められる。団体が入っていないときは、クラブを臨時休業にして、そのスタッフを売店やイベントに投入することも臨機応変に行うべきである。
旅館の品揃えに合わせて客はお金を落としてはくれない。客の特性に合わせて提供商品を変えていくことにより、計画達成のためのプロセスができていく。
このようなことは当たり前だと言われそうだが、案外できていないところも実は多い。
売上計画達成のためのプロセスとは、提供商品に対して顧客が喜んでお金を払ってくれる仕組みを作り上げることであり、これが計画数値達成の裏づけとなる。
| 2010年06月01日|
旅館経営を再構築して新たなスタートを切りたいと日々思っているある経営者の話である。
客室数は50室。バブル期に繁栄した典型的な歓楽街の温泉旅館である。昭和50年代後半から平成5年ごろにかけて段階的に設備投資を繰り返してきた。
当初は売上高が年々増加し続けていたので、経営者は強気だった。金融機関も借入金は膨らんでも、返済と金利はしっかりと払い続けているので問題はないと判断し、融資はスムーズに実行された。
この当時の金融機関が旅館をどう捉えていたかというと、旅館は典型的な装置産業であり、常に大なり小なり設備投資を繰り返しているのが健全な姿だと言っていた。だから、借入金残高が売上高の三倍近くになったとしても、さらに貸し続けていくことが全国で展開させたのである。
つまり、この景気が当面続くという前提があったからだ。
これが旅館経営のビジネス感覚を狂わせ、大きな荷物を背負い込むことになったのである。つまり、自分が予想する客単価と入込みは、設備投資を繰り返すこととエージェントに対して手数料を支払うことで確保できるという思惑だった。
ところが、旅館を取り巻く経営環境は全てといっていいくらい、それまでと反対の方向へ向いた。これに対し、様々な改善を取り組んできてはいるが、結果として外部経営環境の劇的な変化に対して対応し、新たなビジネスモデルを構築しきれないまま、今日を迎えているというのが本音である。
このようななか、破綻した施設を破格で買い取り、アクセスを含めた廉価な設定での新規参入は当面続くだろう。
ここで、プロパーである旅館経営者はどのように再構築を図ればいいか?あくまでも安売りで対抗していくのであれば、設定した料金と稼働率でキャッシュがまわり、利益が出るように内部構造を構築するか、その旅館の特長を最大限に伸ばし、顧客から予約をこぎつけるしかないのである。
この再構築が中途半端なため、顧客の予約という意思決定にいまだ至ってはいない。旅館の都合だけで経営を行うことはできない。顧客の感情を動かすしくみが、それぞれの旅館で如何にしたら作り上げることができるかどうかにかかっている。
| 2010年05月26日|
二次消費の売上があがらない。どの旅館でも共通の課題である。
部門長が集まる毎月の会議を聞いていると、決まって今月は団体客が少ないから二次消費が上がらなかったという理由が担当者から述べられる。
だから団体客が激減した今日、二次消費の売上は、はなから見込めないと宣言しているように聞こえる。
たしかに、景気のいい頃は宴会場から二次会場へ多くの客が流れ宿泊単価は低くても高額の付帯売上が経営を支えていた時代があった。
確実にそのような時代は過ぎ去り、店を開けていれば自動的に売上がたつことはなくなった。
ところがこの旅館では、そのような時代や客の変化に対して何か対策を打っているのかというと、実は何もしていないのである。バブルのころ作られたグランドクラブは客がまったくいない状態で数人のスタッフが手持ち無沙汰にいるだけである。
少なくとも、夕食が終わって館内を歩いている客が少量のドリンクとカラオケが手軽な料金で利用できるしくみづくりと告知は、館内いたるところでできるはずである。売店や大浴場にだって、このような館内販促の場を設けることも可能だ。タイムサービスの割引チケットを配ることもできるはずである。このような来店のハードルを可能な限り低くして、まず利用してもらうための工夫を旅館はすべきであって、前年対比の数字をにらんでばかりでは、らちがあかない。
売店も同様で、全てを業者まかせにしてしまった結果、ほとんど一部の決まった商品しか回転しない結果となっている。ちなみに売上・利益額・数量のABC分析をすれば大部分の商品がただ陳列されているだけだということがわかる。ならば、思い切ってそのスペースを他では扱っていない地元特産品コーナーとし、試食を伴った側面販売をするだけで売上アップを誘導することが可能である。
二次消費はあがらないものだと自ら決め付けるのではなく、客に財布の紐を自然にあけてもらうにはどのような取り組みが必要かを、客の感情という視点で仮説を立て、検証してみることを繰り返してほしい。反応は必ず結果となって出てくる。
| 2010年05月17日|
団体客の大幅な減少とともに、既存エージェントからの送客も減少傾向が顕著になり、ネット系から入ってくる個人客の奪い合いが顕在化している。
パソコンの画面上で旅館商品の比較対照が容易になった今、いかにわが旅館の優位差別化が顧客に伝わるかがポイントになる。しかし、実際はその差がほとんどわからないので、結果として価格の勝負に陥ってしまっている。
実際、旅館からすれば、例えば先月まで二万円の宿泊単価をくずさなかったライバル旅館が、ある日突然キャンペーンと称して数千円の割引を打って出てきたら、あせってしまう。そして入り込み数が伸び悩んでくると、わが旅館もこの料金に横並びにしてしまう。
ところが宿泊単価のダウンに伴って、食材費や一般経費のコストダウンを図っているかというと、この部分には手付かずというパターンが見受けられる。
顧客からすれば、コストパフォーマンスが良くなるわけだから、口コミ評価はアップするけれども、経営状況はさらに悪化するという状況になってしまう。
その月の入り込み計画に比較して、実績が伴わなくなってきた時は、責任者の判断で一気に宿泊料金の変更が行われることが多い。そこで変更した料金でも、利益が出るしくみを構築することが、その旅館の生き残りにかけての必須条件である。
固定費のコストダウンはいうまでもないが、宿泊料金のダウンに伴う食材の工夫によるコストダウンをおこない、必要粗利益額を確保することは経営者の重要な仕事である。
今後もこの傾向は続くものと考えたほうがいい。だとしたら、予想される宿泊価格の変動幅によって、あらかじめ料理内容の変化について、厨房も事前準備をしておくべきである。
特に、個人客は飲み物もほとんど注文せず二次消費も期待できない。したがって、この行動内容における旅館の評価基準は快適で飽きのこない客室空間と、食事の充実度のウエイトが高い。団体客のように料金の差によって高級食材が一品つくというような単純な発想は捨てるべきであり、食事や客室の空間で顧客を魅了し、リピートに結びつくまで商品の質を与えられたコストの中でいかに表現できるかにかかっている。
| 2010年05月06日|