一泊二食という形態だけで旅館の収益を生み出し、かつ資金ショートをしないですむビジネスモデルを維持できている旅館が激減している。
バブル期には、まさかこのようなことになるとは誰も予想できなかったとはいえ、このハードを何とか活用し、必要な収入を確保するための知恵が今まさに必要だ。
昼食と入浴をセットで売る商品や、泊食分離といった発想は新しいものではない。 しかし、旅館は一泊二食があくまでも主流であり、このオペレーションを乱すものは、極めて消極的であった。だから、日帰り商品を扱っている旅館でも時間は三時間以内だとか、利用者にとっては制約が多く、とても日帰り専門の施設には及ばないものになっている。
商品の優位性としては、日帰り施設と旅館とでは「料理の格」が違うとか、イモ洗い状態の風呂ではないとすることを言うむきもあるが、いずれにしても収益の大きな柱とは成り得てはいない。
最近、ゼロ泊二食というパターンがマスコミに取り上げられているが、平日の稼動を埋めることと、このためにかかる経費とを天秤にかけているところが多い。
しかし、現実は客室の大部分が埋まるのは休前日のみ。平日は小手先のプランをいくら増やしても部屋は相変わらず空いているというケースが大部分だ。
ならば、旅館ごとの特性を活かして、新規対象顧客層の開拓に力を注ぐ必要がある。つまり今まで旅館に泊まりたくても泊まることがなかなかできなかった層に着目し、旅館自らその客層に踏み込んでいかなければならない。
数の上からはまだまだ少ない特定の客層をねらった宿。例えばペット可能、乳幼児づれ大歓迎、ハンディキャップ客対応が決め細やかな宿、食事制限対応が可能な宿、特定の趣味が高じてその世界が楽しめる宿、等々。
一見してそれ以外の客層からは敬遠される向きもあるが、同じ形態の旅館はそんなに必要ないのである。ならば新たな可能性のある顧客特性、つまりこれらの顧客には何が必要か?何が満足か?何をクリアすべきかを十分研究し、旅館の新たな商品として開発していく発想が不可欠である。
閉塞した時代には、自らその殻をやぶることが必須条件だ。
| 2010年02月16日|
エージェントと一応契約してはいるが、企画商品には載らない小規模旅館は数の上からすると、非常に多い。
送客においても、何かの拍子であふれたので、面倒みてほしいと言ってくる。このような旅館は、集客の計画も立ちづらく、営業データもそろっていない。だから、分析をするにも決算書等限られた財務データしかないという状況である。
さて、このような立場の旅館であっても、これから生き残るための手段を自ら構築していかなければならないのは、どこも同じである。
典型的なパターンを紹介すると、宿泊単価は一万円前後。年々入り込みが減少し続けている。付帯施設に魅力はなく、料理はほとんど団体向けの料理で変化がない。
地元金融機関においては運転資金を何度となく投じてきたが、改善の見込みがないため、コストカットを強く求めてきている。しかし、
経費削減を続けたところで限界があり、抜本的な集客アップ策が講じられないまま、今に至るというケースが多い。
デフレの時代だとはいえ、価格が安いというだけでは集客には結びつかない。低価格帯の旅館は競争が激しく顧客のコストパフォーマンスの良さが常に求められる。
最近勢力を強めている一部のチェーン店では、その魅力は首都圏からの格安なバスというアクセス上の優位性であり、料理の質はともかく好きなものを好きなだけ気軽に食べられるバイキングであったりする。
ところが既存の苦戦を強いられているところは、肝心な対象顧客のコストパフォーマンス上の満足感を全く計算することができないである。
何度となく述べてきたが、待っていればそれなりの客数を確保できる時代ではなくなったのである。たとえどのような料金帯であっても、客は旅館を選んでいる。
旅館はそれぞれの対象顧客が、旅館を選ぶ基準について、明確な予想をあらかじめ立てる必要がある。
これを商品のリニューアルの柱としていくべきである。「選択と集中」ということばは古い感があるが、何もセールスポイントを作り出せないのでは集客が減っても当然だ。自らが動き、旅館を変えていく力があるかどうかである
| 2010年02月08日|
旅館を取り巻く経営環境が厳しい中、経営戦略の再構築を模索しているところは非常に多い。
現場では、プランや料金の見直し、直営業やネット展開の強化等、様々な角度から集客目標を達成させるための検討が行われている。
しかし、このような状況下では、策を講じても、思い描くような結果にはなかなか到達できない場合が多い。旅館の都合に合わせてくれるはずもなく、戦略が定まらないまま経営のあせりはますます深まっていく。
このようななか、ここ二年ほど経営状況が上向いているA旅館について紹介したい。
同館もバブル期に設備投資をした資金を回収することができず、数年間赤字経営が続き、大幅な債務超過に陥っていた。この間、団体客が加速度的に減少したにもかかわらず、オペレーションや営業展開は旧態依然のスタイルが続いた。これ以上、今の状態を続けるわけにはいかないと、経営者がとった戦略は、目標数値を明確にした「コストカット」。取れば取るほど赤字幅が増えることがわかった低価格帯の割合を、段階的に中価格帯へ「シフト」する。そして個人客から出る「クレーム」の検証と改善の徹底。
この三つを戦略の柱として二年間続けたのである。その結果、目標としていた「フル償却後単年度黒字」を達成することができた。
どん底から這い上がった経験から学んだことは、コスト管理による収支バランスの改善と、クレーム減少を目指したオペレーション変更だけでは、いわば事業存続がかろうじてできる「普通の旅館」に戻ったというレベルにすぎないとのこと。
さらに「選ばれる旅館」になるためには、顧客にとって「思い出、記憶に残る」旅館になることが不可欠であると、この経営者は力説した。
A旅館の創業当時、女将が最も大切にしていたのがこのことであり、A旅館の原点であるという。
顧客にはその旅館に泊まる目的がある。それを旅館は的確に読み取り、顧客の気持ちを察して接客をしていた。ところが年月が流れ、ハード志向が高まるにつれて、この考え方が逆に薄れていったという。顧客の琴線に触れることのない旅館に行きたいと思うだろうか?旅館に泊まる人が少なくなったのは、そんな一面も影響しているのかもしれない。
今、A旅館は改めて旅館の原点をスタッフが共有し、おほめの言葉が増え続けている。
| 2010年01月29日|
新年を迎え、旅館経営者の思いはさまざまであろう。景気動向や観光政策、金融政策等旅館を取り巻く外的環境要因は極めて不透明である。
各金融機関の共通の声として聞こえてくるのは、業種を問わず三か月先の売上の目途が全くたっていないところが圧倒的に多いという言葉だ。
旅館においても同様である。かつてはある程度見込みがついた大型の団体があり、季節変動の波も予想がついた。だから、資金の手当ても早めに金融機関に相談し、それがいつ返せるかも目途がついていた。
ところが昨年を振り返ってみると、高速道路のETC割引やインフルエンザ、円高に一喜一憂し、外的環境の急激な要因に振り回された感がある。
このように自分たちでは解決できないような波が、今年も現れるものだと思っていたほうがいい。それは何か正体は不明だが、肝心なことは、少々のことではぐらつかない体力をもつことができるかどうかである。
資金繰り対策に終始している旅館は、あいかわらず同じことの繰り返しで自転車操業が続いている。何とか金融機関の借入や経営者自らの資金投入、コストカットや支払いの延期等で、目先の資金ショートの回避を続けてきたところも、その旅館自体の体質が変わらなければ、いずれ失速する。
近年、自然災害が温泉地を襲った例があった。この地域は一様にダメージを受け、施設を一時休館をして改修しなければならない事態となった。さらに追い討ちをかけるように、その地域一帯の入り込みが激減した。
それから半年以上がすぎ、災害の影響がなくなりつつあるときに、息を吹き返してきた旅館と、あいかわらず沈んだままの旅館とに大きく分かれてしまった。
これはあくまでもその地をおそった自然災害がきっかけとなっただけで、衰退の根本原因は旅館の内部にあるのである。
外的環境が厳しいのはどこも同じだ。要はその変化に立ち向かうだけの内的体力を自ら作り上げる以外には方法はない。
内面を突き詰めてみれば、なるほど経営悪化の要因が客観的に見えてくる。これを直視し、自ら先頭に立って変えていく熱意が、経営者にとって不可欠の一年となる。
| 2010年01月18日|
スタッフの技量が人によって差があるのはあたりまえだ。とりわけ旅館で目立つのは人的サービスのレベル差である。
ネット系の口コミサイトを見ると、同じ旅館でも、接待をほめているコメントと逆にクレームとなっているものがある。
それは現場でもわかっていて、Aさんは人当たりがいいが、Bさんは雑だという声があがる。女将が何回注意しても直らないので、いつも困っているというような話である。
顧客から見れば、たまたま担当がAさんになればラッキーだが、Bさんの場合は不愉快な思いをする確立は高い。
でも様々な理由から、Bさんの問題可決を図れないまま引きずっているケースが多い。
実はこのような現象については、何もサービス部門に限ったことではなく、全ての部門に存在する。そして何らかの形で顧客に影響を与えている。それがその旅館のグレードに直結しているのである。
今、旅館の品質を上げる有効な手段は、業務ごとのスタンダードを確定し、それがいつも皆できるように教育訓練を実施することだ。そしてそれができないスタッフには配置転換をはじめとした対応をすることを、あらかじめルール化することである。
日常が何となく回っているからという理由で、オペレーションの現状をチェックしていない旅館が非常に多い。昔決めたであろう手順を、何の疑問もなく続けている危険性に早く気づくことである。このきっかけは、口コミサイト等の顧客の声であがったクレームや要望事項を活用することが有効だ。
個人客が釈然としないことは、オペレーションに何らかのひずみが生じていると思ってよい。だが、現場に対して口頭で注意をするだけでは、いつまでたっても解決はしない。
まず、問題となったオペレーションの現状をよくみることだ。その結果、なるほどこれが原因だったのかというものが必ず見えてくる。そこで目指すべきオペレーションを確定し、現実とのギャップをいかにして埋めていくかを決めていく。それを全力でスピーディに変えていくことである。
今、求められているスタンダードの構築と、その実現が、顧客から選ばれる旅館になるための確実な道である。
| 2010年01月05日|